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ヨーロッパフットボール回廊『アジア・アフリカカップ戦後のヨーロッパ戦線その話題』

24・02・15
 
 1月世界のフットボールはアフリカ・アジア大陸別大会に始まり、ヨーロッパ各国のリーグ戦は多くのアフリカ・アジアの選手を欠いて行われた。

 まず、アフリカネーションズカップでは予選グループ3位であったアイボリーコースト(コートジボワール)が、ジャン・ルイ・ガセット監督を大会中更迭したにもかかわらず、代理監督エメルセ・ファエの下、ナイジェリアを2−1で破って優勝を飾った。アイボリーコーストは予選リーグではナイジェリアと同じ組で0−1と敗退していたのだが、選手はエメルセ・ファエ新監督を受け入れ、見違える程のパーフォンマンスを示し栄冠を勝ち取ったのである。期待されたエジプトはサラ(リバプールの得点王)が負傷し、ベスト16での対コンゴ戦に1−2で敗れ涙を飲んだ。

 同じ時期カタールで行われたアジアカップでは、優勝候補トップの日本が予選グループでイラクに1−2で敗戦、そして準々決勝戦でイランに1−2で敗れる番狂わせで敗退してしまった。そして決勝戦は予想だにしなかった世界ランク87位のヨルダンが躍進。韓国との準決勝戦で2−0と勝ち、初の決勝進出となった。しかし決勝戦は地元カタールとの対戦となり1−3で敗れ、ジャイアントキラーとしての栄冠は達成できなかった。

 しかし中東勢の躍進は今までのアジアのフットボールの地図をこの大会で大きく変え、今後イランを筆頭にW杯開催地となったカタール、オイルマネーで潤うサウジアラビアはC.ロナウド、ベンゼマ等々ヨーロッパを代表する世界のスター選手を集めている。そして今大会のダークホースとなったヨルダンや、日本に勝ったイラクが台頭、中東のフットボールがアジアの雄であった日本、韓国を凌駕してきていることを顕著に現した大会となった。もはやイージーな試合はなくなり、多くの選手がヨーロッパで活躍しているからと言って楽に勝てる国はなくなったのである。

 先のW杯でスペイン、ドイツに完勝した日本も今後はアジアを見直し再起を図り、積極的に強化していかねば今後のW杯出場もおぼつかないことが明らかになったのだ。日本に警告1枚である。

 この2つの大陸のカップが取り行われている間、ヨーロッパは新年から今シーズン後半戦に入りリーグ優勝、カップ戦優勝を目指した戦いが始まっている。

 まずドイツのブンデスリーガでの話題は常勝チームであるバイエルン・ミュンヘンのリーグ優勝が遠のいている事であろう。2月11日現在、トップに座するのは勝ち点55のレーバクーゼン。今シーズンにスパーズの元得点マシーン、イングランド代表キャプテンのハリー・ケーンが「スパーズでは優勝カップを手にすることはない」ので「常勝バイエルンで優勝の喜びを享受する」とし、82百万ポンド(約150億円)で移籍したのであるが、トップのレーバクーゼンとは勝ち点5差があるのだ。今後このハンデを取り返し、覇権を獲得することが出来るのか、それともレーバクーゼンが初のブンデス覇権を獲得するのか注目である。このレーバクーゼンの監督は元リバプールのMFであったシャビ・アロンソ(スペイン人)であり、現リバプールの監督クロップが今シーズン限りで退団することを表明しており、その代替えの監督の最有力候補となっているだけに注目を集めている。

 さて最近話題となっているのがフットボールにも「Sin Bin(罰則待機席)」の採用可否である。

 「Sin Bin」とは著しい反則行為、暴言をした選手に主審が一時退場させる為の控え場所(椅子席が多い)のことでアイスホッケーではペナルティ・ボックスとも言い、反則選手を5分間退場させるルールである。ラグビーでも採用されており通常10分待機させられる。主審からはイエローカードが出される行為である。

 フットボールでは1970年のメキシコ大会からレッド(退場)カード、イエロー(警告)カードが採用され、現在までこのルールで罰則が行われている。

 近年、試合速度が上がり、お互いのファールすれすれの反則行為が目立つようになってきている。またゴールを割ったのか、オフサイドなのか審判の目では100%確認できない場合も多くなり、公正さを保つ為VARシステムが採用されている。しかし、その為の施設とビデオ装置の設置、更にピッチ上の審判以外にVARシステムを監視するVAR、審判を球場外の施設の部屋に配置し刻一刻映像分析を行い判定しているが、トップの試合はともあれ、ジュニアー、ユース、アマチュア、プロ下部リーグの試合で全面採用する事はコストの面からも施設の面からも合理性はない事は明白であろう。

 そこでイングランドではグラスルート対象に、特に選手による「暴言」あるいは「相手選手への戦術面での遅延行為、似非行為」については10分間の「Sin Bin」制度を採用している。これをプロにもプレミアリーグにも採用すべきと論議があがり、審判がブルーカードを持ち、これをかざし選手に10分間の「Sin Bin」入りを命じることができる規則を採用しようとしている。

 卑近な例でいえばJapan Womenが行った攻撃しないで引き分けを狙うのも戦術的な『Cynical foul』として「Sin Bin」入りに値することになる。

 現在、FIFA及びIFAB(International Football Association Borad=FIFA及びEngland、Scotland、Wales and N.Irelandで構成されフットボールの規則を策定する機関) では、検討期間中であり、今後イングランドのグラスルートで実験的に行っている結果を踏まえてフットボールのルールを決めることにしている。イングランドではこのブルーカードで38%の暴言が減ったと報告されており、今後は女子フットボール及び男子地域リーグでの採用に向けて実施するとしている。

 その結果にも注目してみたい。


◆筆者プロフィル◆
伊藤庸夫(いとうつねお)
東京都生まれ
浦和高校、京都大学、三菱重工(日本リーグ)でプレー、1980年より英国在住
1980−89:日本サッカー協会国際委員(英国在住)
  89−04:日本サッカー協会欧州代表
  94−96:サンフレッチェ広島強化国際部長
2004−06:びわこ成蹊スポーツ大学教授
  08:JFL評議委員会議長(SAGAWA SHIGA FC GM)
伊藤 庸夫