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大津一貴のエンジョイフットボールライフ『海外リーグで活躍出来る選手とは?』

21・01・11
 上写真/2016年ニュージーランド・スリーキングスユナイテッド時代の大津選手


 北のサッカーアンビシャスをご覧の皆さま、新年あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。

 さて、2021年スタートのコラムは「海外リーグで活躍出来る選手」というテーマで筆を進めようと思います。私は2015年に初めて海外に渡り、モンゴル、ニュージーランド、タイでプレーしました。また、カンボジアやマレーシアなどのプロチームにもトライアルに参加しました。そのような経験を踏まえた上で、海外リーグで活躍出来る選手の特徴を考察したいと思います。


◆ニュージーランド時代のチームメイトが良いお手本

結論から述べます。

 「海外リーグで活躍出来る選手」とは、「自分の能力を正しく把握している選手」&「自分で何事も判断出来る選手」です。

 もう少し具体的に説明すると、プレーヤーとしての自分の「武器」を試合中にいかんなく発揮出来ることと同時に、自分自身の「弱点」も正しく把握している状態であること。その上で、「チームが勝つために自分のプレーを瞬時に決断出来る」といったところでしょうか。

 かつてのチームメイトだった選手を例に挙げて説明します。2016年、私がニュージーランドのスリーキングスユナイテッドに所属していた当時のチームメイトに、FIFA・クラブワールドカップに出場し、国内リーグでも多くのタイトルを獲得したニュージーランド人のストライカー、アラン・ピアーズ(以下:アラン)という選手がいました。私が同チームに所属していた時に、彼はすでに34歳くらいだったと思います。世間一般的には旬を過ぎたと言われる、いわゆる「ベテラン」の選手でした。しかも、その当時の彼の本業はフィジオセラピストだったので、練習に来るのは週に1回のみ(そもそも、ニュージーランドのチームは週に3回ぐらいしか練習をしませんが…)。日本の「キング・カズ」こと三浦知良選手のように、ストイックに毎日トレーニングに励んでいる雰囲気はありませんでした。

 しかし、チーム内で一番多くのゴールを決めたのはアラン。20代の選手たちに混ざって、リーグの得点王争いにも食い込んでいました。彼は普段あまり練習に来ませんでしたが、試合では必ず結果を残す選手でした。

 アランと一緒にプレーしていて感じたことが、まさに前述した内容です。彼の最大のストロングポイントはFWとしての「決定力」。彼が待ち構えるゴール前に良いパスを送れば、確実にゴールの枠内にシュートを放つことが出来る技術と感覚、そしてメンタリティーを持ち合わせていました。逆に、体力的な部分は当時の彼のウィークポイントだったと思います。

 その事実を誰よりも正しく理解していたのは、何を隠そうアラン自身です。もちろん、前線からの守備もチームの約束事の範囲内では最低限は行いますし、絶対に必要な場面では全力で走ります。ですが、日本の高校サッカーのように全てのプレーを全力で行うようなプレースタイルではありませんでした。彼の最大の武器である決定力を、「ここぞ!」の場面で最大限生かすために、体力は温存しておくのです。その結果、彼のシュートから多くのゴールが生まれ、チームの勝利に誰よりも貢献していました。


 下写真/背番号9番のアラン・ピアーズ選手がゴールを決めて喜んでいるシーン
 上写真/アラン・ピアーズ選手のゴール後、チームメイトたちから祝福を受け、信頼の高さもうかがえる


◆日本社会の課題とサッカーの関わり

 少し視点を変えます。コロナ禍の影響により、2020年1月から現在に至るまでの1年間、私は強制的に自分のプレーする場所を失いました。その結果、巡り巡って、とてもありがたいことに地元である札幌にて、子どもたちにサッカーを指導する機会を頂いております(この経緯を話すと長くなるのでまたの機会に…)。その現場(=日本の育成現場)では、選手たち“全員”に対して、サッカーに関わるプレーの「全ての能力」を高めるようなアプローチが多いと感じています(決して全ての日本のチーム、全ての指導者の方が当てはまるわけではないですし、それが間違いや正しいという議論ではありません)。

 その結果、選手たちの能力は平均して全体的にレベルアップするかもしれませんが、どの子どもを見ても同じような特徴しか持っていない印象です。言い換えると「個性的な選手が生まれにくい環境である」ということです。アランのように「体力は無いけど決定力に特化している」という、一芸に秀でている選手を指導の現場ではあまり見かけません。

 この理由は、「日本」という国の文化や教育が大きく関わっていると、個人的には分析しています。

 現代の日本社会における「協調性」は、我々日本人にとって強力な武器の1つでありますが、ときには大きな弱点にもなります。私たちは子どもの頃から毎日、集団からはみ出すことを「良し」とはしない環境で過ごしてきました。整列する際の掛け声である「前ならえ」や「集団行動」は、まさに典型的な例です。全員が同じ方向を見て、綺麗な列や集団を作ることが出来たときの一体感は、メリットの1つかもしれません。ですが、少しでも自分一人が列からはみ出ると、管理者側からすると扱い難く、すぐに先生から怒られてしまいます。このようなことが当たり前の環境で育ってきた我々日本人は、「みんなと一緒」であることに対して、いつの間にか違和感を覚えなくなります。そして、少しでも出ている杭(=周りと違う人)を発見したときに、人々はアレルギー反応を起こしてしまうのです。

 サッカーに話を戻します。サッカーは1チーム11人で試合をする団体競技です。当然、チーム全員で共通の目的(=勝利)に向かうことが、サッカーの試合を行う上で最も重要な要素です。その時に、チームの和が乱れないように「協調性」を発揮しなければならない場面は必ず訪れます。それこそ、FWの選手が自分の体力ゲージを削ってでも、チームのディフェンスのために前線から全力で走ることが必要な場面も訪れるでしょう。

 しかし、サッカーというスポーツは限りなく「決まり事」が少ない競技です。野球のように「ヒットを打ったら一塁に走る」という決まり事は存在しません。縦105m、横68mで区切られたピッチの中で、手を使わずに相手のゴール内にボールを入れるこが出来れば得点です。野球における得点は、一塁、二塁、三塁を必ず回ってからホームベースを踏むことですが、サッカーにおいては右足でも左足でもヘディングでもいいですし、DFやGKの選手が得点を奪ってもOKです。

 このように、サッカーという競技は自由が多いことが特徴的なスポーツです。しかし、自由が多いが故に、その選手が自らのプレーを自分自身で「選択」する必要があります。しかも、その判断スピードは、ときに「コンマ0.1秒」というような極限の世界です。選手はピッチ上で90分間、瞬時の判断を常に繰り返しています。このような状況において、チームの「協調性」を意識し過ぎると、自分の判断が遅くなる、または自分の判断を誤る瞬間に遭遇します。その小さな「ミス」の積み重ねが失点につながったり、チームの敗北につながるのです。

 我々日本人が何よりも重んじてきた「協調性」によって、自分のプレーの選択を邪魔する瞬間が、サッカーでは時々訪れます。しかも、一瞬のひらめきによってゴールを奪えそうな場面、もしくは一瞬の判断によってゴールを守れそうな場面。いわゆる「勝負を決定付ける瞬間」に、選手個人の「判断力」が最も問われます。そして、その判断力こそが、その選手の試合におけるパフォーマンスに直結しています。


 下写真/後ろに写るアラン選手と共にプレーした大津選手(左手前)
 上写真/あらゆる国籍の人たちが集まるニュージーランド


◆「加点方式」の海外と「減点方式」の日本

 チームメイトだったアランが生まれ育ったニュージーランドでは、様々な人種の人たちが暮らしています。ヨーロッパ系、マオリ系、アジア系、ポリネシア系…。肌の色も髪の色も違う人たちと共に幼少時代から育ちます。国の公用語は英語ですが、英語が不得意な人も存在しますし、英語の癖やイントネーションも人それぞれです。また、移民政策によって人口の約4分の1が移民となっているため、学校では十数カ国の生徒が同じクラスで学ぶことが当たり前の環境です。当然、生活を送る上で個性を認め合うことが非常に大切となります。私がニュージーランドに滞在していた際、差別のような類の経験は一度も無かった事実が、それを証明しているでしょう。

 日本の学校教育とは、評価の方法も異なります。日本ではテストの答えを間違えると点数が減る「減点方式」が一般的ですが、ニュージーランドでは自分の考えを記述式で書かせて、その内容によって評価をする「加点方式」のテストを採用している学校が多いそうです。

 これをサッカーに置き換えます。アランの場合、ストロングポイントである「決定力」を最大限に生かすためのアプローチで、自らのプレーを成り立たせていました。仮にアランの体力面が弱点だったとしても、目的(=試合の勝利)に向かって、正解(=ゴールに直結する決定力)をプラスしているので、結果的にチームの勝利に大きく貢献出来る選手(=結果を残す選手)だったのです。ある意味、100点のプレーを発揮していました。これが減点方式の思考だと、どんなに素晴らしい「決定力」を持ち合わせていた選手だったとしても、「体力」に不安がある時点で絶対に100点のプレーは出せません。

 世界一と称されるメッシでさえも、「減点方式」で考えると100点の選手ではなくなります。技術やスピード、シュート決定力には文句の付けようがありませんが、空中線の競り合いでは絶対にファン・ダイクに勝てないでしょう。いや、日本の社会人リーグでプレーしている180センチ台のCBにも、メッシはヘディングの競り合いで勝てないはずです。それでもメッシは、「加点方式」だと世界一の選手です。

 このように、物事の捉え方一つで見える世界が異なります。同じ能力を持つ選手でも、捉え方によってはサッカーにおける結果に差が生まれます。そう考えると、日本人である私も海外のような加点方式で自己評価することが出来れば、今の能力を更に開花させることが出来るのではないかと考えています。

 「自分の能力を正しく把握する」ためにも、「自分で何事も判断する」ためにも、「加点方式」で自分を評価してあげることが重要ではないでしょうか。これが日本の子どもたちが低いと言われる自己肯定感のアップにもつながると思います。


◆まとめ

 今回は「海外リーグで活躍出来る日本人選手」というテーマで、私の見解を述べさせていただきました。「新年早々どうしたんだ?」と思われるかもしれませんが、私はいたっていつも通りで、何事にも真剣に取り組んできました(こちらの北のサッカーアンビシャスも全力です!)。文中にも記載したとおり、コロナ禍によってサッカーがしたくてもプレー出来ない状況に陥りました。そのような状況の中でも、常に「自分が海外で活躍するには?」という視点で、物事を考えてきた結果、たどり着いた答えです。早くピッチ上で、この答え合わせをしてみたいものです。


◆大津一貴プロフィール◆
 少年時代は、札幌山の手サッカー少年団とSSSサクセスコースに所属。中学校時代はSSS札幌ジュニアユース。青森山田高校から関東学院大学へ。卒業後は一般企業へ就職。
2013−2014年は、T.F.S.C(東京都リーグ)
2015年FCウランバートル(モンゴル)
2016年スリーキングスユナイテッド(ニュージーランド)
2017年カンペーンペットFC(タイ)
2018年からは再度FCウランバートル(モンゴル)でプレーし、優秀外国人選手ベスト10に選出された。
2019−20年もFCウランバートル所属
大津 一貴