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弊紙発刊の書籍が全国で絶賛販売中!【一部抜粋して紹介】

18・12・11
 上写真/「100万円も借りられなかったNPOが、街クラブ日本一の施設を造った奇跡の物語」の表紙(左側)。右側は2016年3月に完成したクラブハウスの側面

 昨年Amazon初登場でカテゴリー別4位、その後口コミで広まり、大型書店「コーチャンフォー」でも取り扱いが開始された書籍「100万円も借りられなかったNPOが、街クラブ日本一の施設を造った奇跡の物語」(出版元:北のサッカーアンビシャス、税込1,080円)が、全国のサッカー関係者から注目を集め、絶賛発売中だ。

 本紙では、昨年の12月号から本の中身を少しずつではあるが紹介している。13回目は第十五の巻「クラブハウスの大転換」を抜粋し、紹介したい。


【以下書籍より一部抜粋】

第十五の巻「クラブハウスの大転換」

 2016年3月30日に完成したクラブハウスは、見てみるとわかるが、2階建てで床面積約450平方メートルとかなり立派な施設だ。特徴的なのは吹き抜け構造で配置された多目的室と、グラウンドが一望出来る2階観覧室なのだが、このサイズでも、柴田の当初計画から考えるとおよそ2分の1のサイズだという。それは、クラブハウス建設の助成規定と、ここでも資金面での制約が影響している。

 まず、スポーツ振興くじ助成の規定では、クラブハウス建築への助成なので、当然ではあるが大型の多目的室の設置は目的からして変わってきてしまう。それでも、北海道の地域特性から考えても、サイズはどうあれ冬期間や寒冷時に使用出来る室内スペースは貴重だ。

 そこで柴田は、クラブハウス全体の構造を大型化し、なんとか室内の多目的スペースの面積を取ろうとした。しかし、問題は単純である。総工費だ。さらに追い打ちをかけるように工期の問題もでてきた。SSSが発注する図面の確定がなければ、その後に予定される見積もり合わせでの施工会社の選定や、最終契約にも至らない。この時2015年6月。はっきり言って期間的猶予は無いどころか、期限的にも資金的にも思いっきり暗礁に乗り上げようとしていた。

 年度内完成の期限まで残り9か月。それを超えれば助成金は下りない。結果を出さなければならない特命チームの中で重苦しい空気が流れ、秒針の音が聞こえるように時間だけが過ぎていく――。どれくらいの時間が経っただろうか、気が付けば事務所(この時は札幌市北区の一室)のソファーでスヤスヤと寝ていた柴田が天井から糸にでも引っ張られるように急にムクッと上半身を起こし、薄暗い中、首だけこちらに回してケタケタと笑いだした。まるでB級ホラー映画のようで一瞬ゾクッとした土橋は『寝ていられる状況でも、笑っていられる状況でもないのに、また突拍子もないことでも思いついたのでは・・・』。なぜか嫌な予感がしたという。

 突然、柴田は沈黙を破り「うん。これは誰が考えても難しいな。というかこのままでは完全、完璧に無理だな。出来る可能性は2万%無いな。諦めたらそこで試合終了だな。よーし、分かった。ふっふっふ。 それなら2年に分けて施設を二つ造るぞ! これで問題解決だ! わっはっはー!」。目の前で聞いていた土橋も田古嶋もまさに絵に描いたように頭上に『???』が出た。

 こういう時の柴田の仕事は尋常じゃないほど速い(周りはついていけず、迷惑でもある)。土橋と田古嶋の『???』に構わず、一気に新しいクラブハウスの基本設計指示書(設計図)と、その二つに分けるというプランをメモ紙に書き上げた。

 書き上げた新設計のクラブハウスは、機能性はそのままに全体で約半分のサイズに変更していた。ここまでは、費用面から考えても難しいことではない。しかし、つい先ほどまでは、本命であった最初の設計図をあっさりと捨てる判断をしたことになる。あと9か月しかない年度内に完成しなければ助成対象事業にはならないのにである(簡単に言うとお金は出ない)・・・。この段階から、クラブハウスの基本設計図を一から作り直し、さらに新たな大型施設の建築計画を増やすのは、まともな判断では
絶対に、ぜーったいにありえない!! しかも資金的な余力が無いと重々分かっている中、大型施設を二つ(!?)造るとなると、全くもって何を言っているのか理解不能だ。

 そのプランを簡単に説明するとこうだった。クラブハウスは、必要最低限のサイズに絞り(これでも十分なサイズだが)、クラブハウスの真隣に、いきなり多目的屋内交流施設を別に建てるというものだった。こう説明しても、「期限も資金も限界を超えているのに何言ってんだ!」―― その声は正論だ。

 どんな事業でもそうだろうが、資金が潤沢で期限にも余裕があれば何も苦労することはない。ここでは、知恵と工夫を超える、大胆な発想の転換が必要だった。

 周囲のハテナ顔をよそに(勝手に)柴田は続ける。「クラブハウスの助成金申請は今年度そのまま生かし、来年度に向けて多目的に使える屋内施設を造るため、周辺整備事業の助成金申請も同時に実行する。

 これでピンチをチャンスに変えられるだろ!だろ!!だろー!!! だっはっはー!」。

 勢いよく言われても問題はそう簡単ではない。繰り返しになるが、まずは基本設計の変更が期間的に間に合うかどうか―。次にクラブハウス建築のために準備していた銀行融資の計画も変更しなければならない―。しかも周辺整備事業の助成金は最大で2千万円であり、どんなに簡易的な屋内施設でも、北海道の豪雪に耐える無柱空間の建物を建てようとした場合、億に近い資金が必要となる。それを今から改めて計画を作り、2年間のうちに両方やろう、いや、「絶対にやるのだー! だー!! だー!!!」と言い出したのだ。クラブハウスもどうなるか分からない状態で、さらに新たな助成金申請もしなければならない。どう考えてもまともなプランではない。特命チームは3人しかいないのに・・・。

 特命チームの打ち合わせは深夜に及んでいたが、こうと決めた柴田は、どんどんギラギラしてくる。早速、土橋と手分けをして、取引先銀行との融資金額や計画の変更を説明する企画書を作り上げ、新しいクラブハウスの詳細も決めた。たが、一般的に一度決まっていた銀行融資の計画変更は簡単ではない。メインバンクも、当初の計画案で既に動いており、支店はもちろん本店までも話を通しているのだ。しかし、担当の銀行マンも腹が据わっていた。「ここからの変更は簡単ではありませんが、私もすぐに上にかけあいます。こんな企画はめったに出てこない、今の段階で約束は出来ませんが、進めましょう」――ここでも背中を押した。

 次に対応が急がれたのは、計画の本丸であったクラブハウスの建築である。手書きの設計指示書から、本格設計に入るための設計図を請負業者選定で選ばれていたノースエンジニアリング株式会社(札幌市)に依頼。1級建築士の宮森康文代表は、限られた資金、期限に四苦八苦することになるが、依頼された設計指示書には、素晴らしいアイデアがつまっていることに感嘆しながら、本格設計図を仕上げたという。

 その後、完成した本格設計図を基に建築業者を決める必要があり、設計会社の選定同様、3社以上の見積もり合わせでの施工請負業者選定を行う準備に入った。単純に説明すると価格競争になるのだが、この時すでに2015年9月。土橋が設計図を手に何社かの建築業者に話を持っていくと、特に大手業者からは、詳細説明に進む前に次々と断られた。一部には費用と工期の問題により鼻で笑われて終わったという。

 上写真/書籍の中では子どもたちも読みやすいようにと、登場人物紹介やエピソードがイラストで紹介されるページもある


 上:上段写真/2016年3月30日、年度内ギリギリに完成したクラブハウスの全体像
 上:下段写真/おしゃれなラウンジにも見える特別観覧席。 海外クラブのクラブハウスをイメージして設計されており、グラウンドを一望出来る。LEDナイター照明点灯時には緑に輝くように見えるグラウンドは見事で、サッカー関係者がうなるというのも納得だ


―この続きにご興味のある方は、ぜひ本書でお楽しみください。店頭でのご購入はコーチャンフォー(新川通り店、ミュンヘン大橋店、釧路店、北見店で取り扱い中。他店舗はお問い合わせください)か、Amazonでも送料無料で販売しております(Amazonサイト内で、「SSS札幌」、もしくは「SSSサッカー」で検索するとトップページに表示されます)。

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編集部